虹色カメレオン(中編)

 彼の色変化は、変幻と呼ぶにふさわしい神秘的な美しさでした。観衆はやがてのど笛も忘れ、大きい目をさらに大きくぐるぐると誇張させ、長い舌をだらしなくたらしたまま、食い入るように彼の披露に魅入りました。

 彼はその様子を十分に味わうかのように、また鮮やか過ぎる虹色を皆に見せ付けんがごとく、舞台の真ん中に長い時間動かずに披露していました。「虹錦よ。見事である。そなたの優勝は間違いないであろう。が、まだ他の者も待機しておる。後ほど再びそなたを呼び寄せるから色変化を終え、ひとまず下がってよいぞ。」王はいいました。

 しかし彼は動きませんでした。いや、よく見ればかすかに震えていました。姫もその異変に気付き、観衆もようやく我に返り、会場はざわめきだしました。「どうしたのだ、虹錦よ?」虹色の彼は震えながら、搾り出すようになんとか答えました。「元に……、元の色に戻らないのです」

 切り株の中で虹を願った彼がまだ病の苦しみにある頃、一匹の女性カメレオンが彼の看病をしていました。彼女は彼とは逆に色素のが非常に強い体質でした。女性カメレオンは色素が強いと忌み嫌われ、村を滅ぼす悪魔の使者・魔女とさえいわれるほどです。彼女は彼のように村を追い出されはしませんでしたが、つまはじき者にされ、村からほど離れた切り株の中で孤独な日々を送っていたのでした。そのとき、死に掛けた彼を発見したのでした。彼女は懸命に彼を看病しました。意識はすでに朦朧とし、食欲もなく、まともに動くことなどできない状態でしたが、彼にいつも言い聞かせていました。

「小さい頃聞いたことがあるの。色素の濃すぎる私はできるだけ色の薄い虫を食べればいつかはみんなとおんなじくらいになるって。だからあなたは逆に、もっと色の濃いカラフルな虫を食べればいいと思うの。それに、そういう虫の方が栄養もきっとあるわ。だからたくさん食べて、元気になるのよ。」

 彼女は粘り強く、彼を看病し続けました。色とりどりの虫たちを捕獲し、貴重な樹液を彼に与え続けました。努力は実りました。彼は次第に色を取り戻し、壊死した唇に少しづつ輝きがでてきたのです。

 ある日彼女がいつものように捕獲から帰ると、切り株の中にほのかな輝きが灯っていました。彼が立ち上がり、色を完全に取り戻したのです。いや、むしろ以前よりも強く明るく逞しく色変化ができるようになっていたのです。切り株に駆け込んだ彼女は感嘆して言いました。

「すごい。あなたはもともと色素が薄かったからそんなにもとりどりに輝く力を秘めていたのね。それがあなたの“色”なのね。」

「これが僕の、色……」

彼の秘めていた可能性が一気に開花した瞬間でした。と同時に、あるべき運命が変わってしまった瞬間かもしれません。 (つづく)