I always worry about you because...



この学園に入学して、三度目の春を迎える。
今年は姉さんや美綴先輩も卒業してしまい、もうわたしの友人と呼べる人物も少なくなった。

言ってしまえば、同学年でわたしの友人と呼べる人物はいないと言えるだろう。
友達というか、わたしに良くしてくれた人達は、全て姉さん達の学年の人達なのだ。
わたしの学年の人達は、あまりにも長い時間、以前のわたしと接してしまったからわたしに近寄ろうとはしない。

――これはわたしの行動が招いた事だ。

誰も相手をしてくれないだろうと決め込んで、わたしはすぐ姉さん達の所へと逃げてしまった。
姉さんは何か言いたげだったけど、わたしを気遣ってその言葉を飲み込んでいたのだろう。
わたしがあまりにも弱過ぎる人間だから。
姉さんが見るに見かねて、わたしを守らないといけないと思ったんだと思う。

けれど、もうこのままじゃいけない。

わたしは少しでも強くならなくちゃいけない。
そうしなければわたしは、何時までもこのままで止まってしまうだろうから。
美綴先輩から主将の座を引き継いだ。
これは責任ある立場で、常にわたしの肩に圧し掛かってくる問題なのだ。
だから、これから本当に頑張らないといけない。


「桜、俺たち同じ組みたいだぞ」


先輩が黒山の人集りの中から帰ってきた。
学校のグラウンドには急造の貼り紙掲示板があり、そこには一年の始まりには欠かせない物が貼ってある。


「本当ですかっ、先輩っ」

「ああ」


わたしはホッと胸を撫で下ろした。


「先輩、これから一年よろしくお願いします」

「うん、こちらこそよろしく…桜」












「それじゃあ今日はここまで。三年生のあなた達にはもう休みなんて今日ぐらいしかないから、今日は思いっきり羽目を外しちゃいなさい。あ、悪い事は駄目だからねー。じゃ、またあしたー」


藤村先生はそう言って教室から出て行ってしまった。
今日は始業式が終わった後は延々と各自自分の自己紹介をしていた。
この学年になってそんな事は不要だろうと思うだろうが、今日からこの学年には珍しく、転入生が入ってきたのだ。
だから、藤村先生は大はしゃぎで自己紹介しましょう、って言ってそんな事が始まった。

それと、交換留学生とやらもわたしのクラスに編入された。
それは、藤村先生が英語の教師だからなのだろうか。
まぁでも、その留学生が独逸人だったりするから性質が悪い。
彼は日本語も英語も喋れない事はないのだけど、少し片言なのだ。

日本人は自分達と違う者を恐れる。
けれど、何かしら外国に憧れの様な尊敬のような念も存在する事は確かなのだ。
でなければ、駅前留学などと言う言葉が世に浸透などしなかっただろう。

結局、わたしに白羽の矢が立った。
先輩がわたしに目配せをして、彼を助けるように、と指示したのだ。
確かにわたしは魔術を行使する時、唱える時の呪文は独逸語だ。
自己暗示の意味も兼ねて、わたしはある程度の独逸語を修得してる。
けれど、それを会話として使った事はあまりない。
だから、躊躇してしまうのは仕方がないと思う……。

まぁ、彼とは何とか会話が出来たので一安心だ。
一応ではあるけれど、自分の母国語を話せる人がいて彼も安心したのだろう。
自己紹介の後半の頃は大分緊張も抜けて、柔らかい笑顔を見せていた。
その笑顔の所為で、周りの女の子達がきゃーきゃーと騒いでいたりしてた。

確かにわたしも少し嬉しかった。
――けれど、それ以上に恥ずかしかった。
クラスの皆から拍手が送られて、物凄く恥ずかしかった。

そんなこんなで、今日の一日のメインの部分は終わった。
部活も今日は休みだし。
先輩もバイトはないはずだから、一緒に帰りたい……。


「あ
――


先輩の席の方を見ると、何やら人集りが出来ている。
それも、女の子ばかりだ。
わたしは、先輩の名前を呼ぶのに躊躇してしまった。

何をやっているんだろう…。
普通にちゃんと、自信を持って彼の名前を呼べばいいだけなのに。
こんなんじゃ去年と一緒だ
――
胸が痛みを訴える。

――バカだ。

本当、何をこんな些細な事で思い悩んでいるんだ。


――間桐サン」

「あ
――、はい」


ふと後ろからわたしの名前を呼ばれた。


「あ
――

「さっきは、ドウモ」


留学生の彼が小さく笑みをこぼしながらわたしに話しかけてきた。












「浄瑠璃に興味があるんですか…」


わたしは彼と冬木の街の商店街を歩きながら話をした。
なんでも、彼は和と言うか、東洋の歴史に興味があって留学してきたらしい。
大学に入ったら本格的に東洋の歴史について勉強するとかどうとか。
それよりも、浄瑠璃って聞いて一体何人の日本人がそれが何だかと思い浮かべられるだろうか…?


「間桐サン、昼食ナンデスケド
――

「あ、そうですね。もうお昼過ぎちゃってますね…」


一人で家に帰るのは嫌だった。
そのため、彼が冬木の街を案内してほしいと言うお願いを、あっさりと聞き入れてしまった。


「安物で悪いデスが、アソコのコロッケなんてドウデショウ?モチロン、私が出しマス」


と、彼は惣菜屋さんを指差した。
…なんで、惣菜屋さんのコロッケが案外美味しいってのを知っているんだろうか?
もしかして、本当に日本マニアなのかもしれない。
とにかく、彼の言い分からだと、どうやら奢りのような雰囲気が漂っている。


「あ、でも悪いですよ。一緒に昼食を食べるのはともかく、お金を出してもらうのは」

「イエ。ソウしなければ、男として格好がつきマセン。そうデスね。案内してくれたお礼って事で、そうなると本当に小さなお返しになってしまいマスが」


そう言って、彼は惣菜屋さんでコロッケを二つ買ってきた。
買いに行く様が少し可笑しかったのは内緒だ。






結局わたしはソレをありがたく受け取り、公園のベンチに二人並んで座ってそれを食べている。
よく見ると、結構大きなコロッケだ。
中のタネのベースはオーソドックスに挽肉と玉葱の微塵切りみちあだ。
何となく、懐かしい味がする。


「おや、偶然ですねサクラ」

「あ、ライダーじゃない。どうしたのこんな所に」


散歩です、と突然現れたライダーは言った。
確かに彼女の最近の趣味は散歩だった気がする。
今はママチャリでツーリングするのも好きだとか
――


「ライダー?間桐サン、この人とお知り合いなのデスか?」

「ええ。わたしの家族なんです。
――で、ライダーってのは愛称で、本当の名前は難しいからこう呼んでるんです」

「初めまして」


ライダーは軽く頭を下げて挨拶をする。












――ところでサクラ、士郎は今家にいるのですか?」


しばらく三人で話していると、不意にライダーが話題を変えた。


「え、えっと…」

「シロウ?」


彼はキョトン、としながらわたしとライダーを見る。
ライダーは人の悪そうな笑みを浮かべてこう言った。


「ええ。サクラのよい人です」

「ははぁ、ナルホド。間桐サンも隅に置けマセンね」


そう言って彼も怪しく笑う。
二人とも人が悪いのは気のせいだろうか?
色恋の話は万国共通なのだろうか…。
そう思わせるほど二人の息は合っていた。


――その様子だと、何も言わず外に出たようですね」

「……ええ」


ライダーの鋭い指摘に素直にわたしは頷いた。


「まったく。肝心なところで抜けてますね、サクラは。今日は二人でデートの約束だったのでは?早く士郎の元へ行ってあげなさい」

「でも……いいよ。だって、元々中止になりそうだったから」

「だった、でしょう?推測だけじゃなく、話しをしてから決めてください」

「……うん」

「では、早く行ったほうが良いですよ」

「…でも……」


わたしは隣にいる彼を見ながら躊躇する。
別に責任感が強い訳じゃない。
ただ、そこを逃げ場にしている様な感じだと思う。


「分かっています。私が彼を案内しましょう。まぁ、彼にとっては私の様な女に案内されるのは不服かもしれませんが」

「イエ、そんなコトはありマセン。こちらこそお願いしマス」

「そうですか。それは何よりです」


ライダーは彼に微笑んだ。






まずは家に帰ろう。
もしかしたら先輩は家にいて、わたしの帰りを待っているかもしれない。
なら、早く帰らなくちゃ。

今時、携帯を持っていない家族なんてのは家だけじゃないだろうか?
わたしはあまり機械の操作が得意な方じゃないけど、先輩は得意な方だと思う。
その先輩が使わないから、わたしも使っていない。
何て言うか、こういう時に困ってしまう。


「あ
――


わたしは見慣れた後姿を見た気がした。
すぐさまその後姿を追いかけたけど、人集りの所為で分からなくなってしまった。
もしかしたら、先輩だったのかもしれない
――

けど…もしそうなら、なんで、周りにあんなに女の子が
――












「先輩……帰ってないな」


家には誰もいなかった。
朝使ったお鍋やお皿も洗った後、乾かすために流しの傍に置いておいたが、位置が変わってなかった。
先輩はこういう所にはマメだから、もし帰ってきたとすれば放置などはしていないだろう。
となると、先輩はまだ一度も帰ってきていないと言う事になる。

――もしかしたら、一日中あの子たちと一緒なのかもしれない。

自分の大事な人をとられたみたいで、あの子たちと先輩に理不尽な怒りをぶつけてしまいそうだ。
自分の嫌いな黒い感情を内へと必死に押し止める。
嫌な言葉を飲み込もう。
これはわたしの理不尽な嫉妬なのだから。
だけど、これだけは思っていもいいですか?

――早く帰ってきて欲しい。

わたしはこんなにも先輩を縛り付けている。
そうだ。
そう言う黒い感情を忘れるために掃除でもしよう。
少し散らかってしまった自分の心を片付けるように。
鼻唄でも歌って。
そして、笑っていよう。
それが、わたしにとっても一番良い事だから。

――笑おう。












「ただいまー」


結局、先輩が家に帰ってきたのは日も半分以上落ちかけた夕方だった。
普段なら玄関まで行って、おかえり、と挨拶をするのだけど、今日はそんな気にはなれなかった。
嫌な事を言って、先輩を困らせてしまいそうだったからだ。
なんでこんなにもわたしは弱いのだろう。
そんな自分が嫌になる。
強くなると誓った矢先にこんな簡単な事で躓いてしまう。


「おかえりなさい、先輩」


キッチンに入ってきた先輩にこれだけは言っておこう。
出来るだけ良い笑顔で。
こんな些細な事で折れそうになるな、わたしの心。


「あの…さ、今日は何処に行ってたんだ?帰る前に言いたい事があったんだけど…」

「す、すません。…えっと…留学生の人に街を案内してました」

「……ん、そっか。そうだよな」


先輩の質問にわたしは素直にそう答えた。
それなら…先輩はどうしたんですか、と聞きたい自分がいる。
あの子たちと何をしてたんですか、と聞きたい。
色んな嫌な質問が思い浮かぶ。


「それで……先輩は、こんな遅くまでどうしてたんですか?」


これだけは聞いておこう。
恐る恐る聞いてみる。
そうすると先輩は目を逸らした。


「えっと……ちょっとな。道端で一成と偶然ばったりと会ってな、暫く話してた。アイツ、自分は大学生だからって、暇を持て余してたから、相手をしてほしかったんだろうな」


それは、嘘だった。
わたしは知っている
――


「あ、それとな…。明日も一成と一緒にやる事があるんだ」


そう言って、先輩は台所から出て行った。


















「ライダー……」


わたしはみんなが寝静まった頃、ライダーの部屋を訪ねた。
多分、彼女も寝ているだろう。
けれど、彼女と少し話したかった。


――どうぞ、入ってください』


扉越しにライダーの声が聞こえた。
わたしはドアノブに手を掛け、部屋の中へと入る。

部屋にはベッドと小さめの本棚しかなかった。
それと、最近何処で買ったのか拾ってきたのか分からないけど、ワインを貯蔵する棚が彼女の部屋のクローゼットにはある。
なんでも、最近の楽しみは散歩と飲酒らしい。


「どうしたんですか?」

「ぁ
――


ベッドから上半身を起こして、わたしを見つめるライダーがそこにはいた。
ライダーはわたしを落ち着かせるような優しい笑みをしていた。
それはとても綺麗で、少し嫉妬してまう程の物だった。


「あの……」


なんて言えばいいんだろう?
先輩をわたしから離れなくさせる方法はある、とか聞いてしまいそうだ。
昔のライダーなら真顔で、それなら先輩とのパスを断ち切れば良いと言うだろう。
きっと、そうなったら彼はあなたの傍にずっといるでしょう、とか言いそうだ。


「士郎の事ですか?」

「……うん」


わたしはポツリポツリと今日あった事を話した。
最初は留学生の事。
次は学校が終わった後、先輩の周りにたくさんの女の子たちがいて、楽しくお喋りしていた事。
そして、家に帰る途中、先輩の後姿とその周りにたくさんの女の子たちがいた事を話した。
最後にわたしが何をしていたかと先輩に聞いたら、嘘をつかれた事も話した。


「……そうですか」


ライダーは少し嬉しそうに笑った。
何故かは分からない。


「そうやって、サクラにも人並みの恋が出来る様になったと言う事ですよ」

「…どういう、意味?」

「サクラが二年生の時は、士郎は貴女の傍を離れなかった。嫌、離れれなかった。だから、貴女は安心して、これが普通の状態だと思っていたのです」


まだ、わたしと先輩の身体の調子が良くなかった頃の話だ。
わたしはまだ聖杯の魔力をコントロールしきれてないから、数度危険な事故が起きた。
身体の中に魔力が溜まりに溜まって、更に悪循環な事に放出が出来なかった。

それのおかげで、ライダーにも苦労をさせてしまった事もある。
ライダーはわたしが魔力を送り続けていなければ、この世に現界できない。
その事故が起きた時、彼女はあの手この手を使ってわたしを助けてくれた。

先輩もわたしが危険な目に合うと、どうにかしてわたしを助けてくれようとした。
ずっと先輩がわたしの傍にいる事は当たり前だったのは確かだ。
何時、わたしが壊れてしまうか分からなかったから。


「人並みの嫉妬が出来る、それは人間には必要な物ですよ」

「…わたし、嫉妬は年がら年中してきたんですけど…」

「そうでしたね。サクラは嫉妬深いですから」


くすくすとライダーは笑った。


「まぁとにかく。こういう事は日常では普通の出来事です。だから、サクラも自信を持って士郎と話しをすれば問題ないです。ただ、サクラは普通の事をするのが怖かっただけですよ」


私もそんな事があったような記憶があります、とライダーは言った。
それは少し意外で、そして少し親近感を覚えれて嬉しかった。


「ありがとう、ライダー」

「いいえ。サクラは私の大事なマスターであり、私はサクラのもう一人の姉ですから」


と、彼女は言った。


「なんなら今日は一緒に寝ますか?お姉さんが慰めてあげますよ」

「も、もうっ………いいの?」

「もちろん」


わたしは小さい声でライダーに尋ねる。
ライダーはにこりと笑いながらそっと身体がベッドの端に寄せ、わたしを手招きした。
わたしは誘われるようにライダーのベッドに潜り込んだ。


「頑張ってください」

「うん…」


















「まさか、アノ衛宮君が間桐サンの彼氏とは思わなかったデス」


わたしは彼と二人で商店街を歩く。
今日は彼がホームステイ先の家族に母国料理をご馳走するらしい。
わたしも一緒にどうか、と言われたが断った。


「意外…ですか?」


どうやら、先輩がまた人助けをしたようだ。
確かに困った事態になりやすい可能性が高いのはこの留学生の彼だろう。
今日の体育の授業は、二人一組のペアを作って何かをしたらしい。
彼からはどんな物だったかは上手く伝えれないみたいだけど、大まかな予想はついていた。

で、案の定誰も彼の傍に近寄らなかった。
でも、先輩だけは違って彼に組もう、と言ったらしい。


「イエ…。確かに良く考えるとこれ以上ナイくらいの組み合わせです」


彼はにっこりと微笑んだ。


「アーソレト、間桐サンが自信をもっと持てばこの上ないのデショウが」


見透かされたような言葉にわたしは動揺した。


――と、これはライダーサンの受け売りデス」

「もうっ」


わたしは恥ずかしくなって前を歩く。
ライダーは一体彼と何を話したのだろう?

それでも、これは彼自身でも気づいた事なんだと思う。
知らない土地で生活できる人は先見の出来る人だと思う。
簡単に言えば、普通の人より人の事が解る人って事だ。
少しそれが羨ましかったりする。






「それじゃあ、わたし帰りますね」


夕飯の買い物を済ませ、彼と分かれ道で別れの挨拶をする。
彼は常に優しい笑顔でわたしに手を振ってくれる。
少し気分が軽くなれた。

多分、わたしは何かに気づけて、少し強くなれたのだと思う。












「ただいま」


家に帰ると先輩が玄関の所で待っていた。
なんていうか神妙な顔つきをして。


「おかえり、桜。その…遅かったな」

「ぁ……はい。夕飯の買い物してたら遅くなっちゃいました」

「あー……うん、そうなのか」


先輩がそっぽを向きながら返事をする。
しばらくお互い何も喋らない。


「もう士郎ったら。素直に桜ちゃんがあの留学生の子と何をやってたか聞けばいいのに」


藤村先生が出てきて、先輩の頬を小突きながら言う。
藤村先生自身は先輩の反応を面白そうに眺めている。


「ば、そ、そんな事じゃねーよ、このバカ虎」

「ふーん。顔真っ赤にして怒っても全然こわくないよー。うりうり、士郎も男の子になっちゃってー」

「う、うるさいぞ、藤ねぇ」


顔を真っ赤にした先輩。
こんな顔を見るのは初めてだ。

――もしかしたら、士郎も嫉妬なんてした事ないのでは?

寝る間際にライダーが言っていた事を思い出す。
ああ、そうかもしれない。
だから、先輩はあの子たちと長い間一緒に行動出来たのかもしれない。


「お、俺は桜の事信じてるし、ぜ、全然心配なんてしてないぞ。桜がアイツとはなんでもなく、ただ仕方なく面倒みてるだけだって…」


取り繕うようにそう言った。
先輩の言葉に少し笑ってしまった。

――なんだ、先輩もなんだ。

心の中が安心で満たされる。


「なーんにもないですよ。先輩とは違って怪しい事は一つもしてませんから」


わたしはくすり、と笑いながら言う。


「う……その遠坂ばかりの笑顔。ってか、俺もなんにも疚しい事はしてないぞ」

「本当…ですか?たくさんの女の子たちとデートしたりとか」

「してないっ。あれは単に荷物持ちだ。……って桜」


先輩がしまった、と言うような顔で止まる。


「ふぇ?士郎ったら知らない女の子の荷物持ちまでやったの?んー人助けとは言っても、流石にそこまでやるとおねえちゃんは呆れるよー」

「ち、違うぞ。クラスメイトだ」

「それでも、よ。親しくないんだからほいほいとついてっちゃ駄目。そんな事してるなら桜ちゃんの相手をしなさいよ」


藤村先生が小さい子を正すように先輩を叱った。


「いや…確かにそうだけど…これは桜にも関係するからさ」

「わたし…ですか?」

「ああ。まぁ、明日になればわかる。だからこの話は今日はこれで勘弁してくれ。話せない代わりにお詫びとしてなんでもするからさ」

「なんでも…ですか?」


わたしはまた、先程と同じ笑みをしながら訊ねる。


「う…あ、ああ」


先輩はたじろぎながら頷く。
まったく、わたしを悪魔か何かとでも思っているのだろうか?
そんな、姉さんじゃないんだから。
わたしは先輩を取って喰ったりなんてしませんよ。

…食べられる時はありますけど。


「じゃあ……」


わたしは藤村先生にアイコンタクトを送る。
先生は頷くと夕飯の食材が入ったスーパーのビニール袋を持ってキッチンへと持っていってくれた。
二人だけとなる玄関。
わたしは彼にこう言う
――


「わたしがその事を忘れられるまで、たくさんたくさんキスしてください」


先輩の苦手な事をお願いをしてやろう。






I always worry about you
because I love you so much.
Darling, I love you...
and I knew you love me,
Hey darling, kiss me please...