『夜』

 

夜がこんなにも寂しいものだと感じるのは初めてかもしれない。

 

夕食を済ませ、つまらないテレビに飽き、昼に買ってきた本には集中できず、ならばとゲームを立ち上げるもそれまででどうにもやる気がおきない。

もう寝てしまおうと照明をおとす。

真っ暗な部屋で空気清浄機のライトがぼやっと光っている。

安物なので音が少し気になるがそのうちタイマーで切れるはずだ。

ベッドの中で眠れずにいると、いろいろな人が話しかけてくる。

彼らは思い思いのことを口にして去っていき、またやってきては繰り返す。

このところ毎夜そうだ。

そして日に日に語調が強くなっている。

彼らは誰でもない。

強いてあげるなら僕自身である。

 

・・・こんなにも弱い人間だったのだろうか。

ずっと前、2年前、僕はこんなにも弱い人間だったのだろうか。

 

以前はもっと寂しさに耐えうる強さをもっていた気がする。

以前はもっと寂しさを感じていなかった気がする。

以前はもっと寂しさが身に沁みるものではなかった気がする。

 

ベッドの中で自分を抱きしめるように身を丸くする。

ひたすら眠りを待つ。

できるだけ楽しいことを考えようと。しかし楽しいことのどんな些細な一部にも彼らは声をかけてくる。

最中、清浄機の音が止む。

 

・・・・・・。

静寂。

 

そんなことあるはずもないとはわかっているのに、まるで世界から僕と僕のいるこの部屋だけが切り離されたような感覚。

静寂。

音のない音がキーンと耳を突き抜ける。

僕は起き上がり、オーディオの電源を入れ、小さな音量で音楽を流す。

かすかに聴こえてくるメロディーをかすかに口ずさみながら、そのまま眠りに落ちた。

 

この寂しさは永遠ではないとわかっている。

夜を越えれば朝が来るように、寂しさの先に見える光もあるはずなのだ。

朝が柔らかに僕を起こす。

深い寂しさの分だけ、朝は温かく僕を迎えて入れてくれるのだ。

「おはようございます。新しい日のはじまりです。とっても穏やかでいい日ですよ。さあ起きてください。さあ起きて・・・・・・」