『日本男児』

 

 朝送ったメールの返信がないだけでどうしてこんなにも憂鬱で暗い気持ちの夜を過ごさねばならないのだろう。頭では「そんなこと気にしてもしょうがない」と分かっているのに感情はそれを許さない。求めてしまっているのだ。メールの返信にすがってしまっているのだ。ただ僕の心のよりしろとして。

 一昨夜、僕らは出会った。偶然だったけれど、一緒にお酒を飲み、気が合い、身体を合わせ、連絡先を交わした。

 一日空いた今朝、ふと思い出し、メールをする。すぐに返信がくるものだとどこかで信じ込んでいた。

 昼、連絡はない。まあこんなものかと思いつつも、連絡がこないことはないと根拠もなく思っていた。

 夕方、連絡はない。少しずつ嫌な気分が増殖していく。陽は沈んでゆき、心にも夜が訪れる。徐々に、徐々に。

 夜。裏切られたと思うよりも、孤独。誰が悪いのでもなく、ただ孤独が残される。しかし孤独とともにいるのは後悔である。

「どうしてメールなんてしたんだろう」

 

 安いホテルで自動精算を終えた後、彼女が連絡先をきいてきた。いや、僕が聞いたんだったかな? そう。割りに小柄な後姿に愛おしさを感じたのと、もう一度こういう場所ではなく彼女と会い、話をしたいと思ったのだった。いつもはそんな風に考えることはないのだが、彼女とはそのまま他人に戻っていくというのは違う気がした。いや、「違う」と思うことによって僕は求めていたのだ。僕が彼女ともう一度会いたいと思うと同時に、彼女にも同じように感じていてもらいたいと。いや、きっと感じているに違いないと。

期待。普段僕が抱かない単語だ。実現しない期待は裏切ることしかしない。だから僕は期待という言葉が嫌いだった。嫌いだったはずなのに、求めている。どんなに冷めた気持ちでいても、たったわずかでも信じているのだ。いつか、と。

 

 明日の朝、きっと僕は目覚めてすぐにメールをチェックする。そして諦めとともに一日を過ごす。何日かそんな日を繰り返すうち期待が薄れて消えていき、また日常に戻っていくのだ。