赤い世界は、静かだった。 これから起こることを知っているとでも言うように黙っている。 けたたましく鳴いていた鳥たちはもういない。 誰もが彼岸から遠ざかっている。 音も、 風も、 死んでいる場所だから。 世界から忘れられたものが辿りつく場所だから。 世界に無縁なものが行き着く先だから。 泣きたくなるほど、世界は静かだった。 夕方のような薄暗い世界。 夜明けのような薄暗い世界。 どっちつかずの世界は――四季様のようだった。生にも死にもいないどっちつかずの状態に彼女は居る。 そして、その場所は苦しいものなのかが分からない。 どこにどこまで四季映姫たる物がいて、どこにどこまで四季映姫たる物がいないのか、それは誰にも分からなかった。 そのおかげで、あたいは動けなかった。怖かった。 ずっと目覚めない姿を見るのが。 目覚めるかもと日々、願い続けて生きていくのが。 けれど、自分から殺すという決断をすることは恐らくなかっただろう。動いて、事態が変化することを拒みたかった。 決めたくなかった。いままで多くの死者たちを死に迎えていながら。 身勝手な話だ。 身近な人の生死を決めろと言われれば、黙り込むか、うろたえるしかなかった。生も死も選びたくない。選べなかった。 それでも時は動くしかなくて。 それでも世界は待ってくれなくて。 問いは二択なのだから選べるだろ、とばかりにあたいに迫ってきて。 そうして今、ここにいる。 殺すためだけに今、ここにいる。 地面に降り立った。 降り立つのは怖かった――夢で見た光景と全てが同じだったから。 ただ違うのは、四季様が目の前で寝ていることだった。 血に抱きしめられた、愛しい閻魔をそこに見た。 決して残酷な光景には思えなかった。全てを慈しむように寝ていたからかもしれない。 四季映姫は静かに死んでいた。 生前と変わらぬ姿で、死んでいる。
|